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神経伝達物質

脳障害と漢方薬「抑肝散」の甘くて苦い関係


イライラ症状に抑肝散

これといった効果的な薬のない高次脳機能障害の界隈で、「抑肝散(よくかんさん)を飲みはじめてイライラがしずまった」と語る経験者がけっこう多いのはご存知でしょうか?

抑肝散は、不機嫌で怒りやすい、せっかちな興奮タイプの人に処方される漢方薬。近年では認知症や、てんかん、脳外傷急性期への応用が研究されています。

抑肝散は脳内でなにをしている?

グルタミン酸という神経伝達物質

抑肝散の鎮静作用は、神経伝達物質であるグルタミン酸のとりこみをおさえることによると言われています。

グルタミン酸は、セロトニンやドーパミンなどにくらべて耳にする機会こそ少ないものの、記憶や学習には必須の神経伝達物質。GABAが鎮静作用をもつのにたいして、グルタミン酸は興奮作用をもち、この2つの神経伝達物質で脳の信号伝達の約80%をになっています。

では、なぜこんなに重要な神経伝達物質を邪魔することが、イライラ症状をおさえることにつながるのでしょうか?

グルタミン酸が適度にあるときはいいのですが、グルタミン酸が過剰になると、脳細胞が興奮し神経が常に高ぶった状態になります。これがイライラ症状をひきおこします。さらにその状態がひどくなると、脳細胞にカルシウムイオンが大量に流入し、脳細胞が死んでしまうこともあるので油断できません。グルタミン酸は神経伝達には欠かせない物質である一方で、こんな怖い側面もあるんですね。

そして、余談ですが気づいた方はご名答。グルタミン酸といえば旨味成分の一つですね。「味のも○」などにも大量に入っています。自閉症やADHDの子は旨味調味料を避けたほうがいいと言われる所以です。グルタミン酸ナトリウムとして多くの加工食品に添加されているので、成分ラベルをチェックしてみてください。

セロトニンにも作用

抑肝散は、幸福ホルモンとよばれているセロトニンにも関わっていることがわかってきています。

マウスの研究では、抑肝散でマウスの攻撃性が減少し、社会性が改善したそうです。セロトニンの受容体をブロックするとその効果がなくなることから、抑肝散がセロトニンを介してはたらいていることがわかります。

[参照]

Partial agonistic effect of yokukansan on human recombinant serotonin 1A receptors expressed in the membranes of Chinese hamster ovary cells. – Abstract – Europe PMC
https://europepmc.org/article/med/19913081

ほかにもさまざまな効果

抑肝散の作用はそのほかにも多岐にわたるようで、概日リズムやメラトニン、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NO(一酸化窒素)との関係などについて研究がおこなわれています。

[参照]

Yokukansankachimpihange, a traditional Japanese (Kampo) medicine, enhances the adaptation to circadian rhythm disruption by increasing endogenous melatonin levels – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32921394/

Extract of Yokukansan improves anxiety-like behavior and increases serum brain-derived neurotrophic factor in rats with cerebral ischemia combined with amyloid-42 peptide – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32186023/

Effect of Yokukansan on Nitric Oxide Production and Hydroxyl Radical Metabolism During Cerebral Ischemia and Reperfusion in Mice – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30655039/

心配なのは高血圧

ここまでいいことばかりのように思える抑肝散ですが、漢方も立派な薬です。副作用をともないます。その副作用のひとつが高血圧

副作用って、たまたま運のわるい少数の自分に関係のない人におこるものって思っていませんか?薬の効果のうらに作用のメカニズムがあるのとおなじように、副作用のうらにも作用のメカニズムがあります。

問題は、抑肝散にふくまれる甘草(リコリス)という生薬。甘草は、鎮痛、解毒などに効き、漢方薬やお菓子、お茶などに幅広くつかわれています。そして、その作用のひとつに、血圧の上昇があるのです。

低血圧ぎみの人にはもってこいの薬ですが、脳出血を経験したことのある高血圧の人にとっては気になるところ。

だからといって、いますぐ服用を中止したほうがよいなどということはありません。血圧をしっかりモニターしながら、自分に合うのか合わないのか主治医の先生と相談しながら判断するといいでしょう。

栄養素でおなじ効果が期待できる?

はい、実は栄養素でもおなじような作用をもつものがあるんです。

それが必須ミネラルである亜鉛マグネシウムです。このふたつには、グルタミン酸による興奮毒性をおさえるはたらきがあります。血圧が上がって抑肝散が飲めない人はこちらを試してみるのもいいかもしれません。

マグネシウムにはさらに、血圧を下げたり、リラックス効果があったり、睡眠が深くなったりという嬉しいおまけの効果まであります。

さらにさらに、亜鉛にはグルタミン酸にたいするメカニズムとは別に、イライラをおさえる作用があります。(亜鉛が不足していると、ドーパミンがノルアドレナリンに代謝されやすく、不安・イライラ症状がでやすい)

[参照]

Zinc alleviates pain through high-affinity binding to the NMDA receptor NR2A subunit – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21725314/

The role of magnesium in different inflammatory diseases – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31172335/

Magnesium and Blood Pressure: A Physiology-Based Approach – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29793663/

現代社会では食事に気をつかっている人でも、これらのミネラルは不足しがち。とくに胃酸の分泌が減ってくる40代以降は、ミネラルの吸収力も下がってきます。そんなとき、サプリメントはとても頼りになる存在です。

イライラ解消目的でマグネシウムを摂るなら、L-トレオン酸マグネシウムがおすすめです。さまざまな種類があるマグネシウムサプリメントのなかで、血液脳関門をとおりぬけ脳に到達することがわかっている数少ないマグネシウムサプリのひとつです。

亜鉛は、胃腸にやさしいカルノシン亜鉛がおすすめです。カルノシンといえば、脳疲労によいと話題のイミダペプチドの一種です。その効果を望めるほどの量が入っているかは疑問が残るところですが、プラシーボ効果を期待して「きっと脳疲労にもいいぞー」と思って飲むといい気分にはなれます 笑。