ウチコジ

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脳損傷

パンチドランカーと認知症


高次脳機能障害は、認知症とはちがい、悪化することはなく、ゆっくりと亀の歩みでよくなっていく。

しかし、実はそうとも言い切れない、もうひとつの病がかげにひそんでいることがあります。

今回は、認知症につながりかねない進行性の脳の病について。

高次脳機能障害にひそむ進行性の病

慢性外傷性脳症(CTE)ってご存知ですか?

昔は、パンチドランカーと呼ばれていた症状です。ボクシングやアメフトのように頭に衝撃を受けることの多いスポーツの選手によくみられ、性格が怒りっぽくなるなど人格変化があったり、認知機能がおちていったりしたすえに認知症になっていく、進行性の脳の疾患です。

何回か脳外傷を繰り返したり、重度の脳外傷を経験した人にもみられます。

CTEのなにが怖いかというと、ゆっくりとよくなっていく多くの高次脳機能障害の病態にたいして、CTEは進行性であるということ。神経変性をともない、認知機能が次第に悪化していきます。

アルツハイマー病と共通点

では、このCTEっていったいなんなのでしょうか?
もうすこしくわしくみていきましょう。

通常、高次脳機能障害の症状をひきおこしているのは(簡単にまとめると)

1.  脳への物理的ダメージでおきた脳細胞の損失と、

2. その後ひきおこされた炎症です。

しかし、CTEの場合はそれにくわえ、アルツハイマー病とおなじ、リン酸化タウたんぱくやアミロイドβによる神経変性がおこります。

この画像がイメージわきやすいでしょうか↓

まだ、頭部外傷がどのようにタウたんぱくの蓄積をおこすのか、そのメカニズムははっきりとはわかっていません。しかし、脳内の炎症の根源である活性化ミクログリア細胞が関わっている可能性が研究で示唆されています。

[参照]

The role of microglia in the etiology and evolution of chronic traumatic encephalopathy
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5555778/

ちなみに、活性化ミクログリア細胞と炎症の関係は、脳障害のある人ならぜひ知っておきたいポイントです。こちら↓の記事をご参照ください。

もともと、頭部外傷は、認知症のひとつのリスク因子だという研究が以前よりいくつかありました。高次脳機能障害を専門とする医師も、その関連性に着目しています。もしかしたら、背後には、このCTEのメカニズムも関係しているのかもしれません。

[参照]

Head injury as a risk factor for Alzheimer’s disease: the evidence 10 years on; a partial replication
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1738550/

Head trauma as a risk factor for Alzheimer’s disease: a collaborative re-analysis of case-control studies. EURODEM Risk Factors Research Group – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1833351/

残念ながら、いまはまだ研究段階であるため、死後の脳を解剖することでしかCTEを診断することはできません。あとは患者のそれまでの外傷の頻度・重症度や症状から類推するしかない状況です。しかし、下の記事のように早期診断の研究も進みつつあります。

[参照]

パンチドランカーの早期診断が可能に?|Medical Tribune
https://medical-tribune.co.jp/kenko100/articles/190905529615/

今後研究がすすめば、脳外傷がどのようにタウたんぱくの蓄積をもたらすのか、症状との関係、脳内免疫系や炎症との関係など、さらにあきらかになってくるでしょう。

さて、一番大事な「じゃ、どうすればいいの!?」の部分。
いまできることは脳内の炎症をおさえることです。
炎症を悪化させるような食品を避けること、過剰なストレスを避けること、これだけでも大きな効果があります。

よりくわしい対策のヒントはこちらの本を読んでみてください↓
日本テレビ「世界一受けたい授業」にも登壇したデール・ブレデセン氏の著書です。すこし小難しい内容ですが、理解して実践することができれば鬼に金棒です。

アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム

[参照]

Priming the Inflammatory Pump of the CNS after Traumatic Brain Injury
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4617563/

The neuropathology of chronic traumatic encephalopathy – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25904048/

Chronic Traumatic Encephalopathy: The Neuropathological Legacy of Traumatic Brain Injury – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26772317/

Chronic Traumatic Encephalopathy: The cellular sequela to repetitive brain injury – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28347679/