ウチコジ

脳障害をもつ当事者と家族の心とからだの健康をつくる、健康・栄養情報 & ワークショップ

家族の健康

カサンドラ症候群 – 高次脳機能障害をもつ夫と暮らして


さらに見えない障害

「見えない障害」と言われる高次脳機能障害の影で、さらに見えづらいのがそばで支える家族のケタ外れのストレスだと思うことがある。

これはけっして、障害をもつ本人と比べて、こっちの方が大変なんだと言いたいわけではないのであしからず。ただ支える側もあきらかに心身に不調をきたすレベルの負担がかかっていることを今日はあえて言葉にしたいのです。そう思うことを自分自身にさえ認めない介護者も多くおみかけするので。

なぜ家族の苦悩が見えづらいのかというと、それは人に伝えにくいから。その背景にはこんな理由があるように思います。

  1. 理解を得られない
    おなじ経験をもつ人でないと理解の域を超えるので、だんだんまわりに話さなくなります
  2. 罪悪感羞恥心
    「つらいのは障害をもつ本人だから」と、自分の苦しさを言語化することに罪悪感や羞恥心がわきます
  3. 支援のフォーカス
    支援の視点が障害をもつ本人に向けられており、社会的にもその苦しみを認めてもらえる場がほとんどありません

カサンドラ症候群との共通点

そんなことを考えるなか、前々から聞きかじっていた「カサンドラ症候群」について、あらためて読んでみようと手にとったのがこの本でした。

『カサンドラ症候群 身近な人がアスペルガーだったら』

カサンドラ症候群とは、一般的に自閉症スペクトラムや発達障害をもつ人と結婚した配偶者が、夫婦のコミュニケーションをうまく築けないと感じることで、心身ともに抱える症状のことです。

高次脳機能障害の夫をもつ妻として抱える気持ちのすべてを代弁するものではありませんが、その一部ではあるように感じていました。

本のなかでもほんの少しですが高次脳機能障害についてふれている部分があります。

事故の後遺症などにより生じる高次脳機能障害では、損傷を受けた部位によって、性格が変わったように暴力的になったり、感情のコントロールができなくなったりする。そうした場合には、パートナーはうつ状態など心身の不調を来しやすい。常識的なパートナーほど、それまでと同様に接し、理不尽な行動をやめさせようとするが、何の効果もないどころか、火に油を注ぐ結果となり、余計に絶望感を味わうことになる。

体調不良は体からのサイン

まずカサンドラ症候群とはなにかを説明している文を本から抜粋してご紹介します。相手と共感性のあるやりとりができずにストレス状態がつづくことで、心身にさまざまな不調をきたす様子が解説されています。

カサンドラ症候群は、愛着の機能不全の問題である。

(中略)

パートナーから共感的応答を受けることにより、愛着の仕組みがうまく働き、オキシトシン系が健全に機能することで、ストレスや不安から守られる。免疫系や内分泌系も、健康を守るためにうまく機能する。(中略...共感的応答の欠如は)心身の健康を脅かし、幸福を奪い、ときには精神病の発症や自殺といった事態さえも招いてしまう重大な問題なのである。

さまざまな身体症状が現れやすくなる。多いのは頭痛や身体の痛み、めまい、胃の症状や下痢、便秘などの消化器症状である。心身症としては、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)、メニエール症候群などが代表的なものだが、喘息のようなアレルギー疾患やクローン病のような自己免疫疾患も、ストレスが発症や悪化の引き金になるし、一部のがんの発症にもストレスが影響する。

自分の体調不良と環境って、切っても切り離せないものです。

支える側の家族は、いつも相手の問題ばかり解決しようとして意識が相手側にいってしまいますが、いろいろな不調は身体からのサインだと受けとめて、もう一度自分を大事にする方法を考える機会にできるといいですよね。

ここで「いやでも、私のことよりも」とか「根性」とか「献身」というワードが頭をちらついたら危険信号です。どれも一見よさそうなことを言っているようでいて、実は自分の感情を抑圧する言葉でもあります。「経験者は語る」ですが、ストレスを内に内に溜め込むような状態をつくらないように、自分で自分の環境を調整するのは大切な考え方だと思います。

もちろん「高次脳機能障害の配偶者がいる=カサンドラ症候群になる」という簡単な図式ではないと思います。

共感的なやりとりができるかどうかって、二人の抱える負担やストレスの状態にも影響をうけます。私たち夫婦も子どもが小さく、職が安定せず、初めて高次脳機能障害と直面し戸惑っていた時期は、本に書かれているような傾向がつよくでていました。

いまは、おたがいにたいしての思いやりや笑顔もふえ、自分の感情だけが置いてけぼりにされるというフラストレーションを感じることも少なくなったので、それほどでもありません。

失われる安全感

カサンドラ症候群は、安全基地が機能しないことによって起きる愛着機能不全である。(中略)安全基地になるために大切なのは、相手の安全感を脅かさないことだ。非難や攻撃はもちろんマイナスだが、一方的な押し付けや支配も関係を壊していく。安全は、秩序とも関係が深い。気分や態度がコロコロ変わり、予測ができないことは相手の安全感を脅かしてしまう。

高次脳機能障害をもつ人のそばで暮らすと(大きな個人差がありますが)、なかよく話していたと思ったら発作的な怒りの対象になることは日常茶飯事。そして、生活基盤は築いたそばから崩落するような事件が連発(これは年齢にもよりますが)。そりゃ疲弊するよね、安全感なんてあったもんじゃないと感じるような時期もありました。

安全感は、カサンドラ症候群にかぎらず、自律神経の正常なはたらきにとっても必須のものです。おかれた環境はどうすることができなくても、「大丈夫だよ、安全だよ」と感じられる時間や経験を自分自身につくってあげることはできます。ほっと肩の力を抜ける時間を自分にどんどんつくってあげましょう。ちょっとした安全基地を、家の外にもどんどんつくりましょう。

気持ちをくみとってほしいけど

安定した愛着の最大の特徴とされるのは、相互的応答性である。一方的な押しつけではなく、対等な関係でやりとりし、相手の求めていることに応えるというスタンスが基本である。それがうまくいくためには、相手の反応をよく見て、丁寧にやりとりしながら、供給できる部分を増やしていくという姿勢を常に忘れないことだ。

そう、高次脳機能障害をもつ夫の脳は、たぶん自分の気持ちを伝えることでいっぱいいっぱいなのです。相手の表情をよみとり、自分の次の行動に反映する調整力が低くなってしまっている。状況を把握すること、それと自分の要望を照らし合わせて調整することが、苦手なんだよね。

一方で支える側は「ひとり相撲感」「孤独感」を募らせることになります。

思いやり行動の好循環

では、どうすればいいのか?著者はこう提案しています。

状況を変えていくために必要なことは、不満を言ったり責めたりすることではなく、共感的応答を増やすことである。相手に求める前に、自分がパートナーの安全基地になるように努めてみてほしい。愛着は相互的な現象であり、自分が相手の安全基地になろうとすると、不思議なことに、相手もこちらの安全基地になろうとする。

責めたくなったときに、ねぎらいの言葉をかける。不満を言いたくなったとき、感謝の言葉を口にする。本心からそう思えなくてもいい。ふりでいいから、共感的応答を増やすことだ。言いたいことがあっても、いきなりは言わない、まず、相手の気持ちをほぐし、安全基地と感じてもらうことを優先する。

実は私も実体験からそのように感じていました。

毎日、笑顔、明るいあいさつを心がけること。小さなことにでも出し惜しみせずに「ありがとう」を生活にあふれさすこと。「こうしたらいい」という解決を減らし、「そうなんだね」という寄り添いをふやすこと。「おいしいね」「たのしいね」を見つけて、共有すること。そんなところから、だんだんと大きくなる好循環のループが生まれるのだと思います。